恋愛漫画の移り変わり

かつての恋愛漫画では、「主人公とメインの異性がいて、最後は恋仲になって終わる」というシナリオが一般的でした。思いを打ち明け合う「告白」がゴールとなっているため、「片想いストーリー」が展開されるわけです。

ところが、最近の恋愛漫画は比較的早い段階で告白を済ませ、恋仲になった後を描く作品が増えてきました。早いものでは第1話で告白していますし、すでに恋人同士の状態で物語が始まる作品も珍しくありません。このケースでは、主人公が学生の場合は「卒業」、社会人の場合は「結婚」がゴールになりがちです。いずれも「両想いストーリー」が展開されます。

こういった作品が増えているということは、それだけ需要がある、ということです。両想いストーリーが恋愛漫画のトレンドになりつつある原因は、何なのでしょうか。

そもそも、これまで片想いストーリーがメインストリームとなっていたのは、「作品を作りやすいから」という特徴に起因します。たとえば男性主人公の場合、メインヒロインとの「気持ちのすれ違い」が物語の起伏となりますが、これを生み出すのが「感覚の鈍さ」であったり「他のキャラクターの登場」だったりするわけです。

○鈍い感覚 例

花火大会、いい感じのムード
「俺、お前のことがー」
花火パァーン!
「何か言った?」

○他のキャラクター 例

教室に転校生
「あー!(主人公の名前)!」
主人公「お前はあの時の!」どぎまぎ
メインヒロイン(あ、あたしだってまだ名前で呼んだことないのに赤面)



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このように、キャラクターをポンコツにしたり浮気性にしたりするだけで、気持ちのすれ違いが生まれます。楽な手法はそれだけ浸透しやすく、作品の量が多くなり、メインストリームになったわけです。

時が経つにつれてこれらはどれも「手垢のついたシチュエーション」となりました。すると、目の肥えた読者はお決まりの展開に飽いてきます。「またか」という状態を避けるため、抜本的な部分を見直した結果、両想いストーリーへシフトしていったのかもしれません。

もちろん、恋愛漫画の消費者は必ずしも目が肥えているわけではありません。しかし、新規ユーザーであっても、片想いストーリーのキャラクターに感情移入し辛い読者が増えたのは確かでしょう。このようなユーザーは、「花火の後でもっかい告白すればいいじゃん」と思いますし、ちょっと誘惑されるだけでなびく主人公にいらだってしまいます。賢く現実的なこれらのユーザーを感情移入させるには、キャラクターも同じくらいの知恵と誠実さを持たせる必要が出てきたわけです。

その点、両想いストーリーはすでに結ばれた2人ですので、誠実に愛し合う(通称イチャラブ)シーンを描いたり、2人の知恵で困難を乗り越えたりすれば共感を得やすくなります。一昔前の考えでは「フラットで面白みのない展開」ですが、最近は面白い作品よりも、「面白くない」がない作品が求められている気がします。

このまま読者が賢くなっていくと、50年後の恋愛漫画はもっと絵画的文学的な作品になっていくのではないでしょうか。「セリフが全くない作品」や「無機物同士の恋愛」のように、抽象的な作品がトレンドになるわけです。

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