今の10代には、まったく通じないかもしれません。「サイコクラッシャー」は、社会現象になった人気格闘ゲーム「ストリートファイター・シリーズ」に登場するキャラクター「ベガ」の必殺技です。自身の能力である「サイコパワー」を身にまとい、地面に対して水平方向に移動しつつ、相手に体当たりする技です。英語で「サイコ(Psycho)」は、単体だと「精神病の」という意味で用いられますが、別の単語の頭につくと、「心理」「精神」「霊魂」という意味になります。つまり、サイコクラッシャーは「Psychocrusher(心理破壊)」、サイコパワーは「Psychopower(心理力)」であるとわかります。体当たりですが、攻撃対象は、心理なのです。
まず、「心理」とは「心の理」、つまり、「心の筋道」のことです。「無意識下における心の動き(深層心理)」や、「集団の心(社会心理)」など、幅広い意味を持った言葉ですが、いずれも「実体がない」という点は共通しています。それゆえ、心理そのものを使って他者に外傷を与えることはできません。サイコクラッシャーを放つベガは、全身が紫色の炎のようなものに包まれていますが、あの炎のようなものは、サイコパワーではないわけです。さらに、ベガは「サイコショット」という、「サイコパワーを球状にして相手に飛ばす技」もあります。この技を使うと、画面上に紫色の球体らしき物体が確認できますが、これもサイコパワーではありません。当たると全身火だるまになりますが、それもサイコパワーのせいではありません。
では、サイコパワーとは、一体何でしょう。サイコクラッシャーが攻撃するのは、肉体ではなく、心理です。ただの体当たりなのに、対象が「サイコクラッシャーだ」と認識することによって、心理的ダメージを受けているわけです。この「存在しないものを相手に誤認させる能力」のことを、サイコパワーと呼ぶのではないでしょうか。端的に言えば、「ハッタリ」です。対象は、ベガが「得体のしれない紫色の何か」に包まれ、空中を水平移動している様を観察すると、「これは何か飛んでもない力なのだ」と誤認し、恐怖するわけです。サイコショットにしたって、「空中浮遊している球状の物体に触れたら危険だ」と思い込んでいるに過ぎぎません。
このサイコパワーを成功させるためには、紫色の炎や空中浮遊といった演出を高レベルで行なわなければなりません。加えてベガは、「悪の組織の総帥」「前作のラスボス(サガット)を越える強敵」「世界征服を企む」など、「わいはむっちゃ強いでアピール」をしっかりしているのです。勝負は、戦う前から始まっています。