
賛美隊とは、キリスト教会における賛美歌を演奏する部隊のことです。部隊というと、軍隊や警察といった「戦う人々」というイメージを持たれるかもしれません。実は、賛美隊も戦場にて、暴力ではなく歌によって戦っていた歴史があります(第2歴代志20:21, 22)。また、賛美歌は、「神様をほめ讃える音楽」であり、娯楽や芸術として楽しむ一般的な音楽とは、毛色が異なります。心構えや精神面について触れるのは、いささかハードルが高いトピックなので、なるべく技術面に的を絞って言及しようと思います。
○音楽性
賛美歌と聞いて、多くの人が最初に思い浮かべるのは「ゴスペル」だと思います。黒人霊歌とも呼ばれるアメリカ発祥の音楽で、クワイヤと呼ばれる大人数のボーカリストや、半音ずつ上がっていくコード進行といった特徴があります。しかし、前述の通り、賛美歌とは「神様をほめ讃える音楽」であって、音楽性を限定したものではありません。クリスチャン・ヒップホップもあれば、クリスチャン・メタルもあります。クリスチャン・ジャズは聞いたことがありませんが、極端な話、神様をほめ讃えていれば、ジャンルはなんでもありです。ただ、教会における賛美隊は、「会衆が賛美歌を歌うのをリードする」という使命があります。そのため、会衆が歌いやすい音楽を選定するのが一般的です。
○演奏形態
ジャンルが限定されないので、演奏形態は自由ですが、基本的に歌が中心であることが多いです。というのも、「神様をほめ讃える」という行為をするのに、最も正確かつ手っ取り早い表現方法が、「言葉」だからです。たとえば、妻の料理が美味しかったら、感謝を込めて黙々と皿洗いをするよりも、「美味しかったよ、ありがとう」と言葉にした方が相手に伝わるのと同じです。ジャズの賛美歌が一般的でないのも、ジャズがインスト中心の音楽ジャンルだからだと思われます(しかし、クラシックはインストの賛美歌がいっぱいありますね)。
○楽曲構成
決められた構成を決められた通りに演奏する場合もあれば、まったく構成を決めずにアドリブでやる場合もあります。前者は、正確な演奏がしやすくなるため会衆をリードしやすくなります。「あともうちょっと長く歌いたかった」というような、「場の空気(クリスチャン的には『霊の流れ』)」に合わせて演奏するのは、後者の方が長けています。頭を指して「ヘッド」、グーサインで「フィーネ(もともとグーサインは『コーダ』ですが、こちらの意味ではあまり用いられません)」といったハンドサインを用いて、リーダー(主にボーカリスト)が、構成を指示します。明確なサインを出すのはもちろん、リード通りに演奏するスキルが必要とされる上に、チームワークが求められるため、非常に難易度が高くなります。

○パフォーマンス
一般的な音楽は普通、アーティストを中心にパフォーマンスします。楽曲を披露することで、会衆のフォーカスは、アーティストへ向けられます。会衆が純粋に音楽を楽しむために、アーティストはパフォーマンスするわけです。繰り返しになりますが、賛美歌とは、「神様をほめ讃える音楽」です。その目的は、賛美隊が注目されることでも、会衆が音楽を楽しむことでもありません。賛美隊の目的は、神様が中心となってパフォーマンスすることです。少し精神面の話になりましたが、この点が一般的なアーティストと賛美隊の決定的な相違点となります。