MM殺人事件【解決編】

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 ハンスは眉をひそめた。
「私が犯人だとでも言うのか」
「さっきも言った通り、作曲家が書くMMは『メルツェルのメトロノーム』のことだ。さっきポール刑事が説明していたように、メトロノームはリズムを打ち出すマシンのことで、メルツェルはそれを発明した人物の名前だ。ポピュラー音楽の分野ではBPMと表記されることもあるが、かのベートーベンがメルツェルのメトロノームを使い、音楽史上初めて楽譜にテンポを指定したことから、クラシック音楽の分野ではMMと表記されることが多い」

「ずいぶん冗舌じゃないか」ハンスは苦笑する。「しかし、私はメルツェルという名前ではない。もちろん、ラスト・ネームも」
「ファースト・ネームだけで十分だよ、ハンス刑事。メルツェルのフルネームは知っているか?」
「知るはずないだろう」
 アダムはポールを見たが、彼も首を横に振る。
「ヨハン・ネポムク・メルツェル、それが彼の名だ。ヨハン(Johann)の愛称はハンス(Hans)だろ?」

「言いがかりだ!」ハンスは声を荒らげる。「アダム、君の推理はどれも推測の域を出ない。大昔の発明家と同じ名前だっただけで犯人扱いされてはたまったものでない。被害者の残したMMが音楽記号だという証拠はないだろう? よしんば音楽記号だったとしても、それを書いたのが被害者本人という証拠もない。被害者の死後、犯人が捜査を混乱させるために書いた可能性だってある」
「その通り。だから最初に言ったように、MMは大した謎じゃない。俺は初めからあんたを疑っていた。あんたが犯人だとわかっていたから、被害者の残したMMの意味がわかったんだよ」

「何をバカな。証拠はないだろう」
「あるんだよ、それが」
「なら見せてみろ!」
「見せるのはあんたの方だ、ハンス刑事!」アダムはハンスに指を突き立てた。「凶器は拳銃、犯人は被害者を一撃で仕留めている。素人にできる仕事じゃない。音楽家たちはもちろん、新入りの刑事だって難しいだろうよ。それにこの血の匂い、撃たれてからそう時間は経っていない。凶器の拳銃を処理する時間はなかったはずだ。さあ、無罪と言うならあんたの拳銃を見せてもらおうか!」

 その後、ポール刑事の調査により、ハンスの拳銃から弾が射出されていたこと、ハンスから硝煙反応があったこと、ハンスが隠し持っていた弾丸が被害者の傷跡と一致、線条痕もハンスのものと判明した。事件を解決に導いたアダム探偵は、人知れず放浪の旅へ出たという。

 おわり。

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