赤い雨傘

ちょうど幼稚園から小学校へ上がるころだったと思います。両親と一緒に、自分の勉強机を買いに行った時、子ども用の雨傘を1本サービスしてくれるというので、好きな色を選ぶことになりました。そこで僕は、持ち手まで真っ赤な無地の雨傘を選びました。当時、僕の一番好きな色が、赤だったからです。理由は単純で、戦隊ヒーローで一番目立っているキャラクターの色が、赤だったからです。

幼稚園のころから「一番偉くなりたい」という願望がありました。多少賢くなった今でも、根本的な欲求は変わっていません。当時、「将来の夢は何ですか」という質問に対し、周りの友人たちが「プロスポーツ選手」「お花屋さん」などと答える中、僕は「社長」と答えていました。そのくらい征服欲の強かったので、赤を好きになるのは、至極自然なことだったと言えるでしょう。

赤い雨傘を選んだ僕に、母は「やめておけ」と忠告しました。せめて黄色にしておきなさい、というようなことも言っていたかもしれません。当然、僕は拒否しました。他の色では、赤の代わりは務まりません。僕がヒーローになるためには、どうしても赤が必要だったのです。しかし、正しかったのは、母でした。母は、この時点で「この雨傘をもらっても、使う機会はないだろう」と予見していました。

僕は、赤い雨傘を選びましたが、母の予見の通り、その雨傘を使うことはありませんでした。赤は、戦隊ヒーローの主人公の色であるものの、幼い子どもにとっては、女の子の色として扱われる色だったのです。僕にとってはヒーローの色でも、周りからすれば、「男子のくせに女子の色を使っている」という、非難の対象だったのです。それ以来、身につけるものは、黒か白を選ぶようになりました。



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中学2年生のある時、見かねた友人が「イメチェンしたら?」と言ってきたのをきっかけに、僕は、赤いパーカーを買いました。ヒーローに憧れている年齢ではありませんでしたが、赤は奇抜で、今までの印象を払拭できると、心のどこかで考えていたのだと思います。それからしばらく、色を選択する際は、赤を優先するようになりました。しかし、中高生の男子にとって、赤は非常にポピュラーな色だとわかり、日に日に赤を遠ざけるようになりました。基本的に天邪鬼なので、他人と被りたくない、という気持ちが上回ったのです。

ここ最近は、天邪鬼も薄れてきたように思えます。たとえ周りに何と言われようと、また、他人と一緒であっても、自分の中で理屈が通ったものを選ぶようにしています。小学生のころへタイムスリップするなら、赤い雨傘を差して登校するでしょう。よく言えば周りに流されなくなりましたし、悪く言えば頑固になりました。これは紛れもなく、老化です。

仮に僕に息子ができて、「赤い雨傘が欲しい」と言ってきたら、なんと答えるでしょうか。「やめとけ」とは言いませんし、他の色をすすめることもしないと思います。ただ、「自分ならこうする。なぜなら」という、意見と理屈をハッキリ伝えるでしょう。それをどう受け取るかは、子ども次第です。

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