好きな音と演奏しやすい音は違う

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ジャンル問わず、ドラムの音は「太くタイトな音」を優先している。もう少し具体的に表現すると「アタックは速く、ディケイがなだらかで、サスティンの短い音」といった感じか。硬い柔らかいで言ったら硬い部類に入るし、明るい暗いで言ったら暗い方だと思う。カタログでよく謳われている「豊富な中低域」や「ビンテージ・トーン」、「幅広いチューニング・レンジ」などはよくわからないし、気にしたことがない。そもそもこれらは楽器が持つ特性であって、音作りに大きな影響を与えるものの、決定打にはなり得ない。音をコントロールするのは、楽器ではなく演奏者の腕だからだ。

太くタイトな音を選んでいるのは櫻井ティモであって、誰かに強いられているのではない。能動的な決断だ。では、櫻井は太くタイトな音が好きなのかというと、ちょっと違うと思う。少なくとも、正確ではない。櫻井が太くタイトな音を選んでいるのは、その音が演奏しやすいから、これに尽きる。櫻井は普段ジェットストリーム社のボールペンを使っているのだけど、ジェットストリーム社が好きだから使っているわけではないし、ジェットストリーム社のボールペンでないと書類が作れない、というわけでもない。それと同じで、つまり、櫻井にとって音色とは、道具1つに過ぎないのだ。

魅かれる音もないわけではないのだけれど、コストがかかったり、労力がかかったりするなど、仕事の道具として適当でなければ使うことはない。だいいち、本当に好きな音だったら誰かと共有することなく、1人で楽しみたい。「仕事の道具とは無関係に、どんな音が好きか」と訊ねられた時は、「白い音」「潔い音」といった具合に抽象の限りを尽くして詳細を省くようにしている。仮に櫻井がライブ活動に積極的なミュージシャンだったら「ぜひ、演奏を聞きに来てください」くらいのサービスは口にするかもしれない。

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