フロアタム

ドラムセットの中低域に位置するタムの一種で、本体についた3本の脚で、床に直接セッティングすることから「フロア(床)タム」と名付けられました。通常のタムと比較すると、口径が大きく、胴も深いのが特徴です。たとえば、口径12インチのタムは、深さ8インチを「標準」とし、深さ10インチのものを「深胴タム」、深さ12インチ(口径と同じ)になると「超深胴」と呼ばれます。いっぽう、フロアタムは、口径16インチに対して、深さ16インチが標準となっています。つまり、同じタムであるのに、フロアタムは、「超深胴がスタンダード」という、少し変わったタムなのです。

タムの胴は、深くなるほど低域が出ます。楽器自体のサイズも大きくなるので、音量も大きくなります。ハード・ロックや、メタルのドラマーで、深胴、超深胴タムを使う人が多いのは、大音量のアンサンブルにも負けないパワーを要求されるジャンルだからです。ジャズの分野でも、電子楽器が取り入れられた70~80年代(いわゆる電子ジャズ、フュージョンの時代)には、深胴、超深胴タムが使われることがありました。ごく一部のメーカーは、口径より1インチ深い胴(例・口径16×深さ17)のフロアタムを作っていましたが、基本的にフロアタムは、昔から超深胴サイズを貫いているのです。

なぜ、超深胴がフロアタムのスタンダードになっているのでしょうか。最大の原因は、名前の由来でもある、「床に直接セッティングするための三脚」にあります。たとえば、床から打面までの高さを、26インチとしましょう。口径16インチ×深さ16インチのフロアタムであれば、三脚の長さが15インチもあれば、余裕でセッティングできます。しかし、口径16インチ×深さ12インチというフロアタムでは、20インチ近い長さの三脚が必要になります。しかも、タム本体が床からかなり離れてしまい、安定しません。逆もまたしかりで、口径16インチ×深さ20インチというフロアタムでは、高身長のドラマーでなければ、セッティングに融通が利きません。音楽的にうんぬん、というより、セッティングしやすい深さだったので、超深胴がフロアタムの標準になった、というわけです。

しかし、胴が深いタムは、良いことばかりではありません。まず、大きな楽器を鳴らすために、それなりの力を要求されます。良い音を出すのに、手間がかかるのです。「多少の手間は仕方がないとはいえ、超深胴はやり過ぎだ」ということで、近年では、口径16インチ×深さ14~15インチという、従来のサイズよりも若干浅めの胴が人気を集めています



★オススメ ライブ




また、深さではないですが、ドラムセット全体に、同じような傾向が見られます。以前は、バスドラムの口径が22インチ、タムの口径が12インチと13インチ、フロアタムの口径が16インチというのがスタンダードでした。現在のスタンダードは、バスドラムが口径の20インチ、タムの口径が10インチと12インチ、フロアタムの口径が14インチと、小口径化が進んでいます。楽器のサイズが小さければ、演奏もしやすいですし、値段も安くなるため、ドラマーにとっては一石二鳥です。

最後に、フロアタム小噺。某有名メタル・ドラマーは、フロアタムを2台並べた、いわゆる2フロアのセッティングをしています。しかし、演奏に使うのは小さい方(口径16インチ)だけで、大きい方(口径18インチ)は、「タオルや飲み物を置くためのコーヒー・テーブルだ」とインタビューに答えていました。2フロアは、「見た目が格好良い!」と人気のセッティングですが、使いこなすには、それなりの技量が必要です。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


上部へスクロール