ステッカーだらけのストラトキャスター

彼と出会ったのは、僕が中学2年生の時でした。春に転入してきた彼とは出席番号(五十音)が近く、たまたま一緒の班になったことで親睦を深めていきました。ユーモアのある人間で、同級生思いで、どうしようもなく不真面目だった彼と僕はなぜか気が合ったのです。彼の家は中学校のすぐ側だったため、放課後はいつも彼の家がたまり場になっていました。

中学3年生なり、彼は「都内の高校へ進学する」と言いました。週3日の通信制の高校で、放課後にはプロのミュージシャンのレッスンを受けられると言うのです。「自分のようなろくでなしが集まる高校だ」と彼は笑っていましたが、話を聞く限り、その高校は僕にもピッタリの学校だと思いました。彼の「一緒に行こうぜ」という誘いもあり、2人で進学することになりました。

彼はギタリストで、僕はドラマーでした。彼は友人たちとバンドを組み、僕もそれに誘われました。バンドのメンバーと集まって作曲をしたり、遊んだりしたのは、やはり彼の家でした。学校は長期休みの時期だったので、ほぼ毎日、夜遅くまで時間を過ごしました。その年の文化祭ライブは大盛況のうちに終わりました。



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バンドは最高の滑り出しでデビューを飾りましたが、年度末の卒業ライブに彼は出演しませんでした。遊んでばかりで、単位を取っていなかったのです。僕は、なんとか彼を進級させられないかと、レポートを写したり、代わりにやったりしたのですが、本人に進級の意思がないことがわかると、潔く諦めました。

彼が退学して、一度だけ彼の家を訪れたことがあります。その時、「もうギターは弾かねえから」と、ステッカーだらけのストラトキャスターを譲り受けました。以来、彼とは会っていません。連絡先もわからないので、何をしているかもわかりません。でも、もし一言伝えられるのなら、あの日の「一緒に行こうぜ」に「ありがとう」と言いたいです。今の僕があるのは、まぎれもなく、彼のおかげですから。

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