
ケニーGという有名なサキソフォニストがいます。世界中で大ヒットし、日本でも一時期ブレイクしていたので、ご存知の方も多いかもしれません。サックス・インストという性質上、ジャズにカテゴライズされることが多いのですが、このことがジャズ・ファンの間でしばしば物議をかもされることでも有名です。大学の授業で「ケニーGはジャズか否か」と取り上げられるほどです。

なぜケニーGはジャズとして素直に認められないのでしょうか。一番の原因は、彼の音楽がポップス性あるいは商業性を多分に含んでいることにあります。平たく言うと、ジャズは難解なものであるべきというのが批判的なジャズ・ファンの言い分なのです。たしかに、理論的に見てケニーGの音楽は、簡単とは言わないまでも、簡潔ではあります。英語で「Cheesy (陳腐な)」と表現されるほどありふれた、大衆的な音楽であることは間違いないでしょう。
こういった「〇〇(アーティスト)は××(ジャンル)か否か」という論議は、ジャズ以外の分野でもたびたびあることです。大抵の人は「ジャンル分けすることに意味はあるのか」と思うかもしれませんが、それでは論点がずれてしまいます。あくまで今回はジャズか否かという点に焦点を絞ろうと思います。
まず、ケニーGがジャズであるかどうかの前に、ジャズとは何かを定義しなければならないでしょう。僕は「ビバップ(1940年代のジャズ)だけがジャズ」という、かなりオールドスクールな定義を持っているので、この問題は容易にクリアできるのですが、一般的にジャズとして受け入れられるのは、以下の要素を含んでいる音楽を指します。
1.スウィングビート
2.テーマ→アドリブソロ→テーマという楽曲構成
3.テンションコードや転調による曖昧な調性
4.管楽器やダブルベースなど、アコースティック楽器によるアンサンブル編成
もちろん、これらの要素含まないジャズ・チューンも多くありますが、これらの要素をすべて含んでいながらジャズとされない音楽はないでしょう。反証的ではありますが、以上がジャズというジャンルの定義とします。
この定義を元にケニーGの音楽を紐解いてみると、かろうじてテーマ→アドリブソロ→テーマという楽曲構成ではあるものの、スウィングビートではありませんし、調性も明快です。ひいては、電子楽器中心のアンサンブル編成により、アコースティック性はほとんどありません。ゆえに、音楽的にケニーGはジャズではありえない、と言えるのではないでしょうか。
ミュージシャンならばいざ知らず、大多数の人はこのような音楽知識は持っていないものと思われます。知識のある人が知識のない人のためにある程度指針を立て、ジャンル分けをするのは必要なことですが、知識のある者同士、あるいは、ない者同士が論議するトピックとしては、あまり適切でないように思えます。