ドラえもん新旧オープニング・テーマで見る、現代社会の闇

当記事における旧ドラえもんオープニング・テーマ(以下、旧テーマ)は、1979年から2005年までバージョンを変えつつも主題歌であった『ドラえもんのうた』を指します。また新ドラえもんオープニング・テーマ(以下、新テーマ)は、2007年から現在までの主題歌『ゆめをかなえてドラえもん』を指します。旧テーマは初代ドラえもんのオープニング・テーマではありませんが、バージョンを変えつつ26年という長い期間主題歌であったため、数あるドラえもん関連の曲の中で最も認知された曲だと言えます。いっぽう新テーマは、声優陣が一新したドラえもん以降の主題歌で、まもなく10年目を迎えます。今の小学生が言う「ドラえもんうた」は、十中八九この新テーマのことです。

どちらの歌も2番以降の歌詞が存在しますが、テレビで主題歌として使われているのは1番の歌詞だけです。また、曲構成もAメロ、Bメロ、サビで共通しています。1つずつ紐解いていきましょう。

旧テーマのAメロは、「私には様々ながあり、それらを可能にしたい」という主人公の希望から始まります。そして、「それらを可能とする不思議なポケット」の存在をほのめかします。Bメロに入り、主人公は「空を自由に飛びたい」という具体的な達成目標を提示します。すると、ドラえもんが「タケコプター!」と絶叫しながら登場、不思議なポケットから道具を取り出して主人公に差し出します。そしてサビに入り、意味深な喘ぎ声と共に、主人公はドラえもんに好意を2度伝えます。以上が旧テーマの概要です。不可解な点も含まれているとはいえ、「主人公の具体的な達成目標の完了と謝辞」という、非常にシンプルでわかりやすい歌詞だと言えます。

問題は、新テーマです。まず、Aメロは「私は夢を心の中にいつも描いている」という主人公の傍白から始まる。ここまでは旧テーマとほとんど一緒です。「夢」の部分を「世界地図」に比喩していたり、「自分だけの」という限定を使っていたりしていたりして、旧テーマにはない新しい雰囲気もあります。ところが、ここに突然ドラえもんが現れます。そして、「タケコプター!」と絶叫するのです。主人公はこの時点ではまだ何も具体的な目標設定をしていません。それにも関わらず、ドラえもんはタケコプターを主人公に押し付けるのです。

さらに、2回目のAメロ冒頭で主人公は「空を飛び、時間を越える」という行動を提示します。これは明らかにドラえもんの「タケコプター」の影響を受けた発言です。「空を飛びたい」「時間を越えたい」という欲求の形式でないことからもそれがわかります。続けて主人公は「ドアを開けて遠い国でも行きたい」という達成目標らしき発言をしていますがが、「遠い国」という時点で具体性に欠いています。また、「ドアを開けて」という発言は、完全にドラえもんの道具を前提とした方法です。そこに、待っていましたと言わんばかりにドラえもんが登場、「どこでもドア!」と絶叫するのです。まだAメロなのに、すでに道具を2つも出しているのです。



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つづいて、新テーマBメロは、「大人になったら忘れるのだろうか」という主人公の疑問で始まります。何を忘れるのかについては言及していませんが、文脈からAメロで描いていた夢のことであると察しがつきます。そして次の瞬間、「こういった状況においては、思い出すことをしよう」という提案が飛び出してきます。はたして誰がこの提案をしているのでしょうか。仮にドラえもんの提案とすると、この一言だけがドラえもん視点(他はすべて主人公視点)になるので不自然です。主人公だとしても「こういった状態」つまり「大人になって忘れてしまっている状態」なので、そもそも思い出せない(解決方法にならない提案をしている)はずであり、やはり不自然です。筋を通すには「主人公の幻聴」とするほかありません

そして、サビ。主人公は「シャラララ」と歌ったり「手を繋ごう」という提案を第3者に持ちかけたりしています。さらに、主人公はドラえもんに対し「私の夢を叶えさせなさい」「世界中に夢を溢れさせなさい」と命令しています。「どんな夢を叶えさせるのか」「どのように世界中に夢を溢れさせるのか」、具体的なことは何1つありません。一言で言えば、「横暴」です。このようにして、主人公は暴力の限りを尽くし、何も成長しないままエンディングを迎えます。

これらからわかることは3つ。「具体性なき者は他者の発言に流されやすい」、「過度な甘えは対象を横暴にさせる」、そして「横暴な者に成長なし」ということです。逆を言えば、「具体性は周りに流されない信念となる」「適度な戒めは対象を柔和にさせる」「柔和な者は成長する」ということになります。旧テーマのシンプルさから一転、新テーマは奥の深い反面教師ソングなのかもしれません。

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